東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)216号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の存否について検討する。
1 本願商標が「TAKARA」の文字を横書きして成るものであることについては、当事者間に争いがなく、右事実によれば、本願商標からは、「タカラ」の称呼を生ずるものということができる。
成立に争いのない甲第三号証によれば、引用登録商標の構成は、別紙(一)表示のとおり、「宝」と「福一」の文字を組合せて成るものであることが認められる。
そして、同号証によれば、引用登録商標における「宝」の文字はゴシツク体、「福一」の文字は筆書きであつて、書体を異にしていること、「宝」の文字と「福一」の文字は、その大きさを異にし、分離、独立して配列されていることが認められるところ、「宝」と「福一」は観念上関連性のないものであつて、常に不可分一体のものとして認識されるものとはいえないと解するのを相当とするから、引用登録商標からは、構成文字全体から生ずる「タカラフクイチ」の称呼のほか、「宝」或いは「福一」の各文字による「タカラ」或いは「フクイチ」の称呼をもつて略称される場合のあることは、簡易迅速を尊ぶ商取引の実際における経験則に照らし、否定し難いところであるというのを相当とする。
したがつて、引用登録商標からは、「タカラ」(宝)の称呼、観念を生ずることはないとし、本願商標と引用登録商標とは、「タカラ」の称呼を共通にしないことを前提とする原告の取消事由(一)の主張は理由がないものといわざるをえない。
2 次に、取消事由(二)について判断する。
当事者間に争いがない請求の原因一の事実に前掲甲第三号証及び成立に争いのない甲第五ないし第一二号証、第一三号証の一ないし三、第一四、第一五号証、証人数野一雄の証言ならびに本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。即ち、本願商標は「TAKARA」の文字を横書きして成るものであり、その構成から、「タカラ」の称呼を生ずるものであること、原告は大正一四年九月に設立され、酒類、調味料等の製造販売を業務目的としてきた会社であるが、右設立直後、四方合名会社を合併して、その一切の営業を承継し、おそくとも本願商標の登録出願当時にはわが国屈指の酒類及びその副産物の総合メーカーとなつていたこと、原告は、その設立以来、味淋及び焼酎の製造販売に主力を注いできたが、現在、味淋については約六〇パーセント、焼酎については四〇パーセント弱の全国的市場占有率を有し、そのほか、清酒、ウイスキー、葡萄酒、ビール等を製造販売し、本しめじ、鰻、漬物、鰹節等の食料品や調味料等をも製造販売していること、別紙(二)表示の商標(登録第四九三四二号商標)は、指定商品を旧商標法施行細則(明治四二年農商務省令第四四号)第二〇条の規定による商品類別第三九類「味淋」とし、四方合名会社を商標権者として、明治四四年一二月四日登録されたが、前記合併により、原告が右商標権を取得してその旨登録され、その後存続期間更新の登録が重ねられているところ、同商標の構成のうち「寶」の文字を角形に図案化して表して成る部分から、「タカラ」の称呼を生ずるものと認めうること、別紙(三)表示の商標(登録第五七八〇〇号商標)は、指定商品を同施行細則第二〇条の規定による商品類別第三九類「白酒、焼酎、濁酒、亀ノ歳、直シ、葡萄酒、麦酒、ブランデイ、ベルモツト、ウヰスキー、其他他類ニ属セサル各種ノ酒類(味淋ヲ除ク)」とし、四方合名会社を商標権者として、大正二年三月五日に登録されたが、前記合併により、原告が右商標権を取得してその旨登録され、その後存続期間更新の登録が重ねられているところ、同商標は「寶」の文字を角形に図案化して表して成ると認められ、同構成から「タカラ」の称呼を生ずるものと認めうること、原告は、昭和三年一〇月二日、別紙(四)表示の商標につき、指定商品を旧第三八類「焼酎」として商標登録(登録第二〇二二〇二号)を受けているところ、同商標の構成のうち「寶」の文字を角形に図案化して表して成る部分から、「タカラ」の称呼を生ずるものと認めうること、原告は、その製造販売する味淋、焼酎について、右に認定したところの別紙(二)ないし(四)表示の商標をはじめとし、「寶」の文字を図案化して成り、或いはこれを要部として成る各種の商標を使用してきたものであつて、「タカラ」の称呼を生ずると認められる右各商標は、少なくとも本願商標の登録出願当時にはすでに、味淋、焼酎について、取引者及び需要者の間に広く一般に知られ、かつ、原告の商品全般につき「タカラ」の称呼をもつて広く一般に取引されていたものであること、原告は、昭和三三年五月一六日、別紙(六)表示の商標につき、旧第四五類「他類ニ属セサル食料品及加味品」を指定商品として登録出願し、昭和五〇年九月一日に商標登録(登録第一一四九八八四号)を受けているところ、同商標の構成のうち「寶」の文字を角形に図案化して表して成る部分から、「タカラ」の称呼を生ずるものと認めうること、一方、引用登録商標は、別紙(一)に表示のとおりの文字の組合せから成り、その構成から、「タカラ」の称呼、「宝」の観念を生ずるものであること、以上の事実が認められ、他に右認定を左右すべき証拠はない。
右事実からすると、原告は、その創業は古く、かつわが国屈指の酒類等のメーカーであつて、「寶」の文字を前記のとおりに図案化して成る商標はいわゆる周知、著名商標であり、また、「寶」の文字を前記のとおりに図案化して成る構成から生ずる「タカラ」の称呼もまた原告の商品を指称するものとして広く知られていることからすると、「タカラ」の称呼を生ずる本願商標をその指定商品に使用し、或いは「タカラ」の称呼をもつて取引がなされた場合、その取引者、需要者は、該商品は原告の製造販売にかかるものであると認識する蓋然性が極めて高いものというべく、原告が本願商標をその指定商品に使用しても、それが引用登録商標の商標権者である宝福一有限会社の製造販売にかかるものであるかのような印象を一般に与え、商品の出所につき混同を生ぜしめるおそれがあるものとは認め難い。なお、証人数野一雄の証言、前掲甲第三号証によれば、引用登録商標の権利者である宝福一有限会社の本社所在地である、倉吉市西倉吉町の本社周辺においても、「タカラ」の称呼をもつて取引がなされるのは原告の製品であつて、酢、醤油、金山寺漬など宝福一有限会社の製品は「タカラフクイチ」と称呼されて取引され、「タカラ」の称呼をもつてなされる商取引において同会社の商品と原告の商品とが相紛れるおそれはないことを窺い知ることができるのである。
そうすると、本願商標と引用登録商標とは、「タカラ」の称呼を共通にするけれども、本願商標は引用登録商標に類似していないものというのを相当とする。
被告は、商標の類否は商標の周知、著名性などの事情とは関係なく、本願商標と引用登録商標との間の異同において判断されるべきである旨主張するが、商標は、取引において、その商品が自己の製造、販売等営業にかかるものであることを表彰するために使用するものであるから、商標の類否の判断に当たつては、取引の実情を離れてはこれを考察すべきではなく、即ち、その商品の取引の実情において、取引者又は需要者の間に商品の出所につき混同をひきおこすおそれがあるかどうかによつて決すべきものと解するのを相当とするから、被告の右主張は採ることができない。
以上の理由により、原告の取消事由(二)の主張は理由があり、本願商標が商標法第四条第一項第一一号に該当し登録することができないとした審決は、原告のその余の主張につき判断するまでもなく、結局、違法として取消しを免れない。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容する。
〔編註〕 本件における請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五〇年二月一七日、「TAKARA」の文字を横書きして成る商標(以下「本願商標」という。)について第三二類「加工食料品その他本類に属する商品」を指定商品として、商標登録出願(昭和五〇年商標登録願第一八二九〇号)をしたが、昭和五四年三月二六日拒絶査定を受けたので、同年五月二八日審判を請求し、昭和五四年審判第六〇〇二号事件として審理されたが、昭和五八年八月一六日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年一〇月一九日原告に送達された。
二 審決の理由の要点
本願商標の構成及び指定商品は、前項記載のとおりである。
これに対し、登録第七〇八五七三号商標(以下「引用登録商標」という。)は、別紙(一)に表示した構成より成り、第三二類「野菜のつけ物、その他本類に属する商品、但し海そう類を除く」を指定商品として、昭和三九年一一月二一日に登録出願、同四一年五月二六日に登録、同五一年八月九日に商標権存続期間の更新登録がなされているものである。
よつて按ずるに、本願商標は、その構成は前記のとおり「TAKARA」のローマ字綴より成るものであるから、該文字に相応して「タカラ」の称呼を生ずること明らかである。